先日とある日雇い現場の社長から「毎日ウチに来て働いてくれ」と指名されて大喜びのタイゾーとシゲ(共にあだ名で日雇い)の2人は知人であり痴人でもあります。
「オレ達は選ばれし人間なんだ!」と勘違いをして、昼の休憩時に公園で酒を飲んでいるバイト失格のタイゾーとシゲ。
そんな彼らにウンザリしながらも休日に向かった先は、「痴人の愛」が代表作の谷崎潤一郎や「人間失格」でお馴染みの太宰治が宿泊した旅館としても有名な、熱海にある起雲閣(きうんかく)なのでした。
〈目次〉
起雲閣の実業家たちと文豪たち
起雲閣は1919年(大正8)実業家で政治家としても活躍した内田信也が、母親の静養の為に建てた別荘で、当時は湘雲荘と呼ばれておりました。
1925年(大正14)に鉄道会社など多くの会社を経営する根津嘉一郎に起雲閣を譲渡、2つの洋館を増築して庭園を現在の姿に整えました。
更にその後1947年(昭和22)に金沢でホテルなどを経営していた桜井兵五郎が買い取り「起雲閣」と名付け高級旅館を開業、日本を代表する有名な作家達が宿泊して、文豪がインスピレーションを得るために滞在した旅館として有名になります。
熱海の高級旅館としてその名を高めてきましたが、1999年(平成11)施設の老朽化と運営の難しさから廃業、52年間の歴史に幕を下ろしました、建物は熱海市が保存し現在は観光施設として一般公開されており、多くの人が見学に訪れています。
【入館料610円(大人)】
起雲閣は真ん中にある庭園を囲むように廊下と部屋が配されている回廊式の構造で、時計回りで回廊を巡っていきます(逆周りはNG)。
受付で入館料を支払った後、鍵付きのロッカーに下足を入れてスリッパに履き替えます、鍵は紛失すると実費300円を負担する事になるので気を付けましょう。
最初に訪れる部屋は旅館になってから塗り替えられた群青色の壁が一際目を引く麒麟の間、初代のオーナーである内田信也が母親の静養のため建てられた部屋で、スタッフが起雲閣の歴史をご説明しております。
一見簡素な造りの和室ですが、高い天井や当時としては珍しいバリアフリーの畳廊下、不規則な歪みのある大正硝子から見える庭園の風景など贅沢な空間。
日雇い現場にある急な階段とみたいなバリアフリー度ゼロの階段を2階に登れば、太宰治が泊まった部屋として有名な大鳳の間。
編集者の計らいで起雲閣別館(1988年に取り壊し)にこもり『人間失格』を執筆後の1948年(昭和23)3月18日に、愛人の山崎富栄を伴ってこの部屋に宿泊しました。
人間失格の主人公である葉蔵と日雇い現場で主人公のタイゾーは、道化を演じるダメ男という点では共通しておりますが、葉蔵が数々の女性と関係を持つモテモ男に対して、タイゾーは店でお金を払っての関係しか経験がない非モテ、太宰治が知ったら全力で嘲り笑う事でしょう。
再びバリアフリー度ゼロ階段を下りた場所にある重岡健治作品の彫刻『大地のみのり』こちらも非モテのタイゾーを小馬鹿にしたものなのでしょう「さすがだね!シゲ!(・∀・)」
根津嘉一郎がオーナーだった時代に増築した洋館には、タイゾー&シゲのお金持ちになりたい願望を具現化した部屋が立ち並んでおります。玉姫という名の部屋はダイニングテーブルを設置し、シャンデリアを吊るしたヨーロッパ風の造り。
玉渓という名の部屋はヨーロッパの山荘風の造りながらも、暖炉の覆いにはサンスクリット語の飾りや入口の天井には竹が用いられる等独特の空間、インテリア知識ゼロのシゲが何も分からずに葉巻を吸いながらガウンを着ている姿が目に浮かびます。
豪邸に住む生活に憧れながらもシゲは今日もネットカフェから、自転車の荷台に沢山の荷物を携えて日雇い現場に向かうのです。
同じく根津嘉一郎氏が買い取り増築した金剛の部屋、室内の装飾は洋館としては大変珍しい貝で飾る螺鈿細工(らでんざいく)によって施されており、建築当時は独立した建物で部屋の入口あたりが玄関だったそうです。
職場では貝と同じく2枚(2人)で一体のタイゾーとシゲ「オレ達が一緒の日に休むと会社に多大な迷惑をかけるから別々の日に休もう」とお互いに固い誓いを交わしているみたいです。仕事中に無駄に張り切る割には休憩中に公園で酒を飲む2人が一緒にいる方が迷惑である事が何故分からないのでしょうかね?(´・ω・`)
金剛に併設されたローマ風浴室は改築の際に多くの部分が現代の材料に改められてしまいましたが、ステンドグラスの窓や湯出口は建築当時の姿のままだそうです。
風営法などで大幅なリフォームや建て替えが困難になっている風呂屋に突撃して「オレは堅気の者じゃない」と大風呂敷を広げるタイゾー…店の女性にバレバレなのが何故分からないのでしょうかね?(´・ω・`)
初代オーナー内田信也の別荘の一部だった和館にあった孔雀の間、当時は麒麟の隣にありましたが、1953年(昭和28)旅館として客室と宴会場を増築するにあたって現在の位置に移動したそうです。
作業場を3階から2階に移動となり職場では機械を任され「ウチの会社の機械で出来ないモノは無い!」クジャクの羽ばりに大言壮語を吐くシゲ…日雇いの分際でウチの会社とか言っちゃう人はたまに見かけますが、なぜ自分の置かれている立場が分からないのでしょうかね?(´・ω・`)
起雲閣から来宮神社へのアクセスはバスで10分徒歩で20分
起雲閣でレトロロマンに浸った後はパワースポットして有名な来宮神社への参拝が定番コースの熱海観光、起雲閣前から伊豆箱根バス「笹良ヶ台団地循環」に乗って10分程度。
昼間は1時間に2本の運行で、停留所は【起雲閣前→清水町→仲田→福道町→来の宮神社前】の順に停車します。
徒歩でも20分程度で行けない事は無いのですが長い坂道を登っていかなければなりません
バスの時間が合わず手持ち資金も少ない僕は、炎天下の中歩いて来宮神社まで行きました。
初川沿いを歩き清水町バス停の場所で右折します
寂れた商店街を少しだけ歩き市役所前で左折
そこからはひたすらまっすぐの坂道を登ります、人生は重荷を背負って坂道を行くが如し。
JR伊東線の線路に突き当たり右→左とクランク状に進み、来宮ガード下の2つのトンネルを潜り抜ければ来宮神社へとたどり着きます。
来宮神社本殿より人気の天然記念物「大楠」
来宮神社の歴史は古く、神社が創建したのは今から1300年前だといわれております。
縁結びや夫婦円満、商売繁盛の神様「大己貴命(おおなむちのみこと)」、日本に樹木を植えてまわった樹木や病気平癒の神様「五十猛命(いそたけるのみこと)」、古代神話で有名な勝利や出世の神様「日本武尊(やまとたけるのみこと)」3人の御祭神が祀られている来宮神社。
本殿左手の緑の道を進んで行けば神社のシンボルで、天然記念物にも選定されている来宮神社のご神木「大楠」。
樹齢2000年以上で全国2位の巨木、約24mの幹の周りを心に願いを秘めながら1周すると願い事が叶う言い伝えがあります。
タイゾーとシゲがやって来たらどんな野望を胸に秘めながら大楠を1周するのでしょうか?
そして「オレ達は特別」と言いながら大楠の前で酒を飲む2人(>_<)
起雲閣
住所:静岡県熱海市昭和町4-2
電話:0557-86-3101
URL:kiunkaku@i-younet.ne.jp
入館料:610円(大人)
営業時間:9:00~17:00(入館は16:30迄)
休館日:毎週水曜日(祝日の場合は開館)
駐車場:普通乗用車37台